第78回 アポトーシスに学ぶまちづくり
コンパクトなまちづくりで都市の生命を再生
私たちの体には、アポトーシス(プログラムされた細胞死)という機能が備わっています。“細胞の自然死”とも言われますが、たとえばガン化した細胞など身体に不要な細胞は除去され、体内で日々つくられる膨大な数の細胞に見合った数の細胞が自滅することで細胞交代が正常に行われています。あるいは、オタマジャクシがカエルに変態するときに不要となるシッポがなくなることもアポトーシスによるものです。アポトーシスは、身体を管理し、健全で最適な状態に保つために欠くことのできないメカニズムなのです。
そして、私たちが暮らす“まち”は、巨大な生命体に例えることができます。家やビルなどの建造物を細胞、交通システムやさまざまなインフラを循環器として見ると、それぞれが健全に保たれ、バランス良く機能しなければ、人が病気になるように、まちも衰退してくことは明らかです。中山間地域等における公共交通網の衰退が、さらなる人口流出を招き、人が住まない村をつくり出していることも、その一例です。
高度成長期以降、日本の“まち”は拡大成長を続けてきました。ところが、高齢化社会、人口の減少、経済の縮小、低炭素化への対応など、さまざまな問題から、近年、コンパクトなまちづくりが求められるようになっています。必要な機能を備えながら環境負荷が小さく、質の高い暮らしを可能にするコンパクトシティ。そこで注目したのが、アポトーシスの仕組みでした。都市や地域を健全にするために、まちづくりにも計画された細胞死が必要だと考えたのです。
老朽化した建物、シャッターが閉まった商店街、役割を終えた施設。山積みする課題の中で、これからの街づくりはどうあるべきなのか。そこには、縮小のプロセスを組み込む必要も出てくるでしょう。たとえば、居住者が激減した高層マンションの上層階をカットする“減築”。あるいは、使われなくなった構造物などを取り壊して元の環境に戻す“ミティゲーション”。状況に応じて、さまざまな対策がありえるでしょう。もう一度、“まち”を生き物として捉え直すことで、地域に見合ったモデルづくりを進める研究が、いま行われているのです。
谷口 守 教授
筑波大学大学院 システム情報工学研究科
都市のダイエットが持続可能な社会へつながる
1990年にアメリカに留学して、growth manegement(成長の抑制)という都市計画の考え方に接しました。日本はバブルのただ中で、開発ラッシュの時代。まだこういう考え方はありませんでしたが、時代を追って注目されるようになったのです。近年では、コンパクトシティという概念がまちづくりの現場で使われるようになってきました。 では、コンパクトなまちづくりとはどのようなものなのでしょうか? 私は、「未来のための都市のダイエット」という説明をしています。地域の個性を考慮しつつ、環境負荷が小さく、かつ生活の質も高く、人々が進んで集まるようなまちづくりを行うこと。持続可能な社会を実現するためには、拡散させない縮小のプロセスや、空間をいかにリサイクルするかといった視点も必要だと思いますね。
アポトーシスは多細胞生物の身体を最良の状態に保つために調整された範囲で起こる遺伝子で制御された細胞死です。私たちの体はおよそ60兆個の細胞で構成され、毎日1億?数十億という単位で細胞がアポトーシスを起こし、新しい細胞と入れ替わっていると言います。ガン細胞も日々、体内で生まれていますが、アポトーシスが機能することでガンの発症を免れているのです。そして、自己免疫疾患やウイルス感染症なども、アポトーシスがうまく起こらないために発症すると考えられています。 これに対して、ネクローシスという細胞死があります。ネクローシスは壊死(えし)とも呼ばれるもので、外傷や血行不良などによって細胞内外の環境が悪化して引き起こされる、予期しない細胞死なのです。 Views: 63