第75回  ウリ科植物に学ぶ土壌浄化法

土中に残留する難分解性物質を吸収する

植物で環境浄化を行うファイトレメディエーション。 残留性が高く、一般の植物ではほとんど吸収できない 高脂溶性有機汚染物質を効率的に吸収・蓄積する、 ウリ科植物に学ぶ土壌浄化法とは?
ズッキーニ(Cucurbita pepo)

ズッキーニ(Cucurbita pepo)

 ウリ科カボチャ属の野菜。ウリ科の植物は、一般の植物に比べて残留性有機汚染物質の吸収率が高いことが知られている。写真は、実験用に栽培したさまざまなズッキーニ。

土壌や地下水などの汚染を浄化する技術の1つに、ファイトレメディエーションがあります。植物が根から水分や養分を吸って生育する力を利用し、汚染物質を吸収させて回収したり、分解して元のきれいな状態に修復するというものです。汚染された土などを移動させずに、その場で浄化作業を行えるため二次汚染の心配もなく、低コストであることなどから注目され、活発な研究が行われています。

ところが、ダイオキシン類やPCB(ポリ塩化ビフェニル)など残留性有機汚染物質(POPs:Persistent Organic Pollutants)と呼ばれる化学物質群は高脂溶性で水に溶けにくく、一般の植物はほとんど根から吸収することができません。これらの物質は毒性も高く、国際的に排出や移動などが厳しく規制されていますが残留性が高く、30年以上も前に使用禁止になっている物質が、未だに土壌や地下水、生物の体内から発見されているのです。

近年注目されているのは、ウリ科植物のもつPOPs吸収能です。カボチャやキュウリなどさまざまな種類の中でも、ズッキーニの仲間から高い吸収・蓄積性を示す種類が発見されたのです。根から特異的な物質を分泌して土中の有機物質と強く結合した高脂溶性化合物を分離し、さらに導管を通して地上茎へと運搬する。現在、そのメカニズムの解明と、吸収や運搬に関わると思われる物質の実証試験が進められています。

現状では、POPs類の浄化は処理プラントで薬品による洗浄や高熱炉で焼却されています。同定された高脂溶性化合物の分離物質を合成して土壌に播いたり、遺伝子組換えなどにより、ウリ科以外の植物による高効率な吸収が可能になると考えられ、広大な汚染地帯でも有効な浄化が行えると期待されているのです。

 

乾 秀之 講師
神戸大学 自然科学系先端融合研究環 遺伝子実験センター

乾 秀之 講師

 植物と動物の特性を活かした環境技術を形に

農薬を通した環境技術の研究を行っていました。たとえば、動物も植物ももっている薬物を分解する酵素があります。調べてみると、動物の酵素のほうが活性が高いんですね。そこで、その酵素遺伝子を植物に導入し、除草剤で汚染された土壌を浄化する研究などをしていました。植物と動物の特性をうまく組み合わせて環境技術を形にしたいというのが、私の研究に対する大きな目標です。 そして、主導的にどんどんと進めるのではなく、学生と対等な立場でディスカッションして、一緒に研究をしていくことを重要視しています。学生は若くて頭が柔らかいですから、いろいろと話していると、思いもかけないようなアイデアが出てくることも多いんです。それによって研究も進み、学生自身も大きく成長していくと思っています。

 

トピックス

 残留性有機汚染物質(POPs)は、2004年5月に発効したストックホルム条約により、排出や移動などが厳しく制限されており、各国がその抑制に取り組んでいます。ところが土壌などの環境中にいったん放出されると、偏西風やグラスホッパー現象(蒸発、凝結を繰り返し、徐々に極域へ移動する現象)などを通じて国境を移動するといわれています。そのため、本来はPOPsが存在しないはずの地域に生息するアザラシの体内などからも検出されているのです。 ファイトレメディエーションは、植物を育てることが浄化につながるため、基本的には太陽の光と水があれば、特別な設備投資やエネルギーの投入がいらない環境負荷の低い浄化法であり、現行の処理法に代わる技術の確立が要望されているのです。

 

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