第62回 地球史に学ぶ温暖化対策
太古の地層に探る炭素固定法
太古の地球を覆う大気は、二酸化炭素(CO2)濃度が現在の数百倍も高かったと推定されています。その大量のCO2はどこへいったのか? いまでは、森林が多くのCO2を吸収し、炭素を体内に固定して地球温暖化の抑制に有効であることが知られており、健全な森林の育成や砂漠緑化などの取組がさまざまに行われています。ところが太古の地球では、海底の鉱物がより大量にCO2を封じ込めていたことがわかってきたのです。
オーストラリア西北部のピルバラには、約35億年前の海底で噴火した玄武岩層(海洋地殻)が露出しています。その玄武岩層を調査したところ、現在の海洋や生物などが固定していると推測される全炭素量の約4倍の量を、当時の海洋地殻が固定していることが確認されました。海洋に溶け込んだCO2が玄武岩中のカルシウムイオンなどと反応し、炭酸塩鉱物として沈殿することで、大気中の濃度を大きく低下させたわけです。
現在の地球では、大気中のCO2濃度が当時に比べると著しく低いために、この太古のCO2固定メカニズムは起こっていません。これを人工的に機能させることができれば、非常に有効な温暖化対策になります。世界で1年間に排出されるCO2を人工的に海洋地殻に固定するには、100平方キロメートル程度の面積があれば十分であり、海洋地殻の面積全体からみるとごく小さな点ぐらいの大きさでしかないのです。まさに海洋地殻は、無尽蔵の可能性を有しています。
地球が本来的に備えている機能を上手に利用して環境問題の解決に活かす。そのためには、地球の大きな営みを理解し、どのようなスケールで進めれば自然とうまくバランスがとれるのか、しっかりと見極める必要があります。地球の本質を理解した上で効果的に温暖化を抑止しようという炭素固定法の研究が、いま進められているのです。
加藤泰浩 准教授
東京大学大学院 工学系研究科
地球の本質を知ることに発見の芽がある
小学校の理科準備室で初めて見たキラキラ光る石。実は黄銅鉱だったのですが、こんなものが世の中にあるんだ、どうしてできるんだろうと、不思議に思いました。それがキッカケで、地球を研究する研究者になりたいと、地質学の道へと進んだのです。現在は、地質調査を通して、地球環境や海底鉱物資源の研究を行っています。 純粋な工学系の研究からみると私の研究は基礎的で、社会に役立てるまでに時間がかかります。しかし、地球の長い歴史のなかで形成されてきた地層の成り立ち、さまざまな含有物質の有り様、自然が有するメカニズムなど、グローバルな知見を集めることで、地球の本質を理解することができる。そして、そこにこそ、環境や資源問題の根本的な解決に役立つ発見の芽があると考えています。
誕生して間もない地球は高濃度の二酸化炭素で覆われ、超高温の地表、空はオレンジ色に光っていたといいます。やがて隕石とともにもたらされて大気中にたまった水蒸気が雨となって降り注ぎ、海が形成されます。そして、海中へ取り込まれたり、石灰岩を形成することで大気中の二酸化炭素は次第に減っていったのです。さらに時代が進むと、全球凍結と呼ばれる氷河期に突入しますが、そこからの脱却には火山活動という自然のメカニズムが働きました。火山の噴火は、地球内部に閉じ込められた二酸化炭素を再び大気中に放出し、温室効果で地球を暖めていったのです。このように、長い歴史の中で地球は温暖化と寒冷化を繰り返して来ました。それは、自然の大きな流れであり、人の営みがもたらしたといわれる現在の地球温暖化にどう向き合うか、その知を学ぶ研究が注目され始めています。 Views: 41