第50回 クエン酸に学ぶバイオマス活用
もみ殻からつくるバイオシリカ
ガラスやセラミックスの強化材、触媒、吸着材、肥料ほか、幅広い用途で利用されているシリカ(二酸化ケイ素)は、一般に石英や珪藻土などの鉱物を原料としていますが、生物の組織内にも存在しています。なかでも、稲わら・もみ殻はシリカの含有率が多いことで知られていますが、国内では年間約1,100万トンあまりが米作によって発生し、70%ほどが未利用のまま廃棄されているのです。そのため、非食系の貴重なバイオマス資源として、その利用促進が図られています。
稲わら・もみ殻の成分はセルロース類が約8割を占め、残りは水分とシリカ、イネが土中から吸い上げた不純物(金属類)で構成されています。その燃焼灰がシリカとなるのですが、セルロース類を燃えやすくして純度を上げるため、硫酸や塩酸などの強酸類で洗浄し、さらに水洗いするという前処理が行われています。ところが強酸類は環境や人体への負荷が大きいため、この方法には高額な設備投資が必要であり、排水処理という問題もありました。
そうした課題を解決したのが、クエン酸を用いた加水分解技術です。もともと自然界に存在するクエン酸は環境負荷がなく、水洗いの必要もありません。しかも、クエン酸が有するカルボキシル基と重金属が結びついて溶液中に残留し、重金属を別に回収することもできるのです。この技術で開発された純度99.6%という「バイオシリカ(R)」は、無数の微細孔の働きにより、脱臭、物質の吸着能で、鉱物シリカや炭を凌ぐ効果を発揮することもわかりました。
現在、このクエン酸処理技術を東南アジアの米作地帯で利用するための実証実験も進められています。また、廃建材など木質バイオマスからのエタノール生産へ導入されれば大幅な効率アップが見込まれます。広大な農地がバイオ燃料をつくるための作物づくりに利用されるなかで、世界中で顕在化し始めている食糧問題の解決に活路を開くとも期待されているのです。
近藤勝義 教授
大阪大学 接合科学研究所
人が考えることは、必ず実現できる
「考えること=創造力と想像力」が、新たな研究を生み出す起源です。研究成果をイメージしながら着眼点を模索し、見出すことが重要であり、見出したことを実行するのは決して難しいことではありません。人が考えることは、必ず実現できると思って研究に取り組んでいます。 私の研究室のモットーは、「onthejobtraining」。講義よりも実践を重視しています。たとえば、昨日の実験と今日の実験、あるいは1週間後というように、結果を比べると、毎回、何かが変わっています。説明のつかないことで、出るはずのない結果がでたときには、決して見過ごさずに追求する。それが、人が気づかない発見につながり、研究の質を高めることにつながるのです。
シリカの最も一般的な製品例は乾燥剤のシリカゲルではないかと思いますが、ゴムや樹脂製品の補強材、モルタルやコンクリートの結合材、土壌改良材、農業用肥料、さらには化粧品や食品など、実にさまざまな分野で利用されています。コンクリートに5~10%混ぜると圧縮強度が3割ほどアップ、田んぼにシリカゲル肥料をまくと稲が台風などで倒れにくくなり収穫もよくなるといいます。最近では、高い脱臭・吸着効果をいかして汗の匂いを吸収する繊維の開発や、和紙に漉き込んで壁紙に使うといった応用も始まっており、物質を吸着・回収するフィルターの開発など、バイオシリカの用途は無限な可能性を秘めているといえるでしょう。 Views: 233