第48回 自然光に学ぶ多原色光源装置の開発
生体リズムのナゾに迫る第4の光受容体
体内時計という言葉でも表現されますが、私たちが1日24時間のサイクルで暮らすためのメカニズムに、サーカディアンリズム(概日リズム)と呼ばれる生体リズムがあります。たとえば、時差ボケは海外旅行などで昼夜の逆転が起こり、この生体リズムが乱れるために引き起こされるものです。
サーカディアンリズムは、実は1日およそ25時間周期と言われますが、太陽の光に同調して正しく働き、1時間のズレはリセットされるのです。ところが現代社会では、街や建物の中が光に溢れ、夜中でも昼間のような明るい光を浴びることも少なくありません。このように夜に強い光を浴びたり、反対に朝に太陽の光を浴びない生活が続くと、睡眠障害を引き起こし、通常の社会生活を送ることができないという病気も問題となっています。
時差ボケや睡眠障害などの治療には、太陽光のような強い光をあてていますが、完治には時間がかかるといいます。そんな中で注目されているのが、メラノプシンという色素を含む光受容体、mRGC(melanopsin-expressing Retinal Cell)です。これまで人には、赤・青・緑の3色の光を感じる錐体と、暗い中で光を感じる桿体(かんたい)という光受容体しかないと考えられていました。ところが、最近になってmRGCが発見され、生体リズムの調整に深く関わっていることがわかってきたのです。
そのメカニズムを解明し、治療などに役立てるため、mRGCを選択的に刺激可能な多原色光源装置が、世界で初めて開発されました。現在、一般的には青の強い光を利用してmRGCを刺激する研究が盛んですが、この装置によって自然な光環境の中でmRGCを特異的に刺激することが可能になりました。そして、mRGCを刺激することで生じる瞳孔反応の様子も明らかになっています。mRGCが人に与える影響、その秘密を探る研究がさまざまに行われているのです。
辻村誠一 准教授
鹿児島大学 工学部
人間を「こころ」から理解し、脳研究へつなげる
人はどのように物を見て、形を認識し、色を知覚するのか…。私が行っている研究分野は、心理物理学と呼ばれる、「こころ」から人間を理解しようという学問です。一方、瞳孔反応測定やMRIを使った測定などの他覚的評価は、現在の脳研究にとって欠かせないものです。一般に、「こころ」と「脳」の研究はその目的や対象を同じくするところもあり、お互いに他の知見を参考としていますが、その記述のレベルは大きく異なっています。私は、「こころ」と「脳」の働きをどちらも計測し、その一致、不一致を調べることによって、この2つの異なる分野の橋渡しになるような研究を続けていきたいと考えています。 私の研究室では、常日頃からマスプロダクトではできない手作りの実験装置を制作するように心がけています。いろいろな装置を手づくりしてきましたが、手づくりだからこそ最近のめざましい科学の進歩にも柔軟に対応できるのです。ほとんどがとても地味な作業ですが、研究に自分のアイデアを忠実に反映させるためには、重要なことだと思います。
ラット(ネズミ)の網膜に新しい光反応性細胞が発見され、メラノプシンという色素によって光を感知していることが確認されたのは2002年のことです。2005年には、人でも発見され、瞳孔反応や体内時計のリセットに関与するメカニズムとして注目され、さまざまな研究が行われています。メラノプシンは昼と夜を区別するために使われ、視覚的な部分では利用されていないと言われています。しかし一方で、視覚や色覚にも影響を与えているのではないかという報告もあります。現時点で、この神経節細胞の機能的な役割はほとんど解明されていませんが、今後、研究がさらに発展して明らかになっていくと期待されています。 Views: 56