第149回  活性炭に学ぶ環境調和型酸化プロセスの開発

おが屑由来の活性炭で  酸化反応を促がす

有機合成において酸化反応は、材料等の機能を 向上させるために最も重要なプロセスの1つだ。 多量の重金属に代えて、バイオマスを有効活用する、 活性炭に学ぶ環境調和型酸化プロセスの開発とは?
おが屑とおが屑由来の活性炭

おが屑とおが屑由来の活性炭

 製材所では、木の加工に伴い大量のおが屑が発生しており、廃棄処理される量も少なくないため、バイオマスの有効活用としても注目される。おが屑由来の活性炭は、極めてきめ細かいのが特徴。酸素官能基を多く含んだ樹種の選定、賦活化の処理方法などにより、酸化能の高い活性炭を開発している。

医薬品や香料、機能性材料などの合成において、酸化反応は重要な役割を果たしています。ところが、その多くはクロム酸、二酸化マンガンなどの重金属を多量に用いて行われており、リサイクルできないことや、処理排水に有害物質が含まれる場合もあることなどが問題点として指摘されています。そこで、環境に負荷をかけない、新しい酸化プロセスの開発が望まれているのです。

そんな中で、活性炭を触媒に、空気を酸化剤として行う酸化反応法が開発され、話題を呼びました。微細なたくさんの孔にさまざまな物質を吸着させる活性炭は、従来、冷蔵庫等の脱臭剤、浄水器や空気清浄機のフィルターなどに利用されていますが、活性炭のまったく新しい利用法として注目を浴びているのです。有機合成化学では、活性炭の表面にパラジウムを薄く塗布したパラジウム活性炭を、水素を付加する還元反応に利用します。その逆反応として、水素を奪う、すなわち酸化反応に利用できないかと考えたのです。パラジウムには、自己の体積の935倍もの水素を吸着する能力があると言われています。

実験の結果、パラジウム活性炭をエチレンと組み合わせることで、アルコールの酸化触媒として利用できることを確認。さらに、パラジウムなしで、ある種の活性炭が高い酸化能を示すことも明らかにされました。おが屑やヤシ殻を原料とする数十種の活性炭で試験をする中で、表面に酸素を含む官能基をたくさんもっている樹種が有用であること、さらに賦活化(孔をあける)の処理をなるべく低い温度で行うことで高い酸化能を示す活性炭ができることが分かりました。

活性炭は繰り返し利用することが可能です。製材所などで大量に発生するおが屑の有効活用法として、また低価格で、かつ重金属をバイオマス材料に変えることで環境に負荷をかけない新しい酸化プロセスとして、期待が寄せられているのです。

 

林 昌彦 教授
神戸大学大学院 理学研究科

林 昌彦 教授

 情緒や思いやりをもった化学者に…

いま、原料、つくり方(プロセス)、さらには、つくった後の処理やリサイクル等、環境に与える影響を考えてものづくりをすることが、化学者に求められています。謙虚に自然に学ぶ、自然に還るということが大事だと思います。学生たちに良く言うのは、教えられたことだけをやるのではなく、自分でよく考えるということです。これから、みんなのライバルは人工知能やロボットになっていくことでしょう。人工知能にはできない、情緒や思いやりといった自分の感情を大切にしながら、研究に取り組んでほしいですね。 私たちの研究室では、半数近くが海外からの留学生です。留学生がいるお陰で、日本人の学生は普段なかなか行かれないような海外の地へ一緒に出かけたりしています。そうした交流も、これからの化学者には、ますます求められることではないでしょうか。

 

トピックス

 一般に、炭が水をキレイにしたり、空気を浄化する能力があることが知られています。活性炭はその炭の能力を大幅に高めるために、薬品やガスを使って多くの微細孔を空けたものです。微細孔の直径は、1?20ナノメートルほどで、炭素内部に開いた微細孔の壁の表面積は1グラムあたりで500?2500平方メートルにもなるそうです。表面積が大きければ大きいほど、物質の吸着能力が高くなるわけです。脱臭剤や浄水器などが身近なところですが、ガスの分離や精製、水銀やダイオキシンなどの有害物質の除去、下水処理場糖の悪臭除去、自動車やオートバイに取り付ける大気汚染防止装置、貴金属の回収、さらに電気二重層キャパシター(蓄電池)の電極など、活性炭は実にさまざまな分野で活躍しているのです。同時に、高性能な活性炭の開発も求められており、その用途もさまざまな可能性を秘めています。

 

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