第140回  受容体に学ぶ人工シグナル伝達システムの構築

DNAオリガミで規則的に配置された自己集合体をつくる

DNAオリガミ構造体と2次元自己集合体

DNAオリガミ構造体と2次元自己集合体

 針状のDNA構造体を導入した十字型DNAオリガミ(写真上段左)と脂質二重膜上に形成された格子構造集合体(写真下段)。マイカ(雲母)基板上に形成した脂質二重膜に、十字形DNAオリガミが静電的に吸着し、その後、自己集合して2次元格子構造を形成する様子をAFMで観察したもの。拡大写真(円内)で見ると、十字型DNAオリガミがキレイに配列されていることがわかる。写真上段右はDNAの文字をDNAオリガミ上に描いたもので、分子によってさまざまな文字や絵も書くことができる。

分子を組み上げて構造体をつくるナノテクノロジー。 DNAナノ構造体を部品として使って挑戦する、 外部からのシグナルに応答し、生体反応を促す 受容体に学ぶ人工シグナル伝達システムの構築とは?

近年、DNAを部品として利用してさまざまな構造体を作成し、新しいデバイスを開発しようというDNAナノテクノロジー研究が活発化しています。その1つにDNAオリガミがあります。溶液中で鋳型となる長い1本鎖DNAと塩基配列を設計した短い相補鎖DNAを加えて加熱、ゆっくりと冷却することで、三角形や星型、スマイルマークなど、設計図通りにいろいろな形に折り畳まれたDNAナノ構造体をつくることができるのです。

また、DNAオリガミが脂質二重膜の表面と静電的に相互作用して貼り付く性質に着目し、1次元、あるいは2次元に自己集合させて規則的なパターンを持つ集合体をつくる研究が進められています。そして、一辺が100nmの十字形DNAオリガミを使った実験で、脂質二重膜上で規則的に配列した格子構造集合体をつくることに成功しています。脂質膜上に吸着した十字形オリガミの末端同士が塩基対間に働くπ(パイ)-π相互作用により、自律的にマイクロメートルスケールで格子縞が組み上がっていくことが確認されたのです。

さらに、十字型構造体の中央にDNAで作成した針を導入し、格子構造を組ませて脂質膜を貫通させる実験を行っています。今後は、針の先端に目的とするシグナル分子を付けておき、外部からの刺激によって人工細胞内で分子を切り離す研究、細胞内部に転写や翻訳などの生化学反応を制御する系を導入する研究などが進められていきます。

DNAオリガミには、光応答性や熱応答性をはじめ、さまざまな機能を組み込むことが可能であり、集合体の形状も思い通りに設計することができます。シグナル伝達システム以外にも、薬剤を運ぶドラッグ・デリバリー・システム、バイオセンサーなど、多様なデバイスへ応用できる可能性を秘めているのです。

 

遠藤政幸 准教授
京都大学 物質?細胞統合システム拠点

遠藤政幸 准教授

 イメージングで新しい発想を得る

大学時代に初めて入ったのがDNAを扱う有機化学の研究室でした。DNAは生命の根源ですから、興味深かったですね。以来10年あまり、DNAを材料としてナノテクノロジー研究を続けています。DNAオリガミは、思い通りの構造が容易につくれるという点が魅力的で、この研究以外にもDNA分子を運ぶ研究も行っています。細胞を見分けて治療したりする分子ロボットをぜひ開発したいと考えています。 私の仕事の半分は、そうした人工物の開発ですが、残りの半分は原子間力顕微鏡(AFM)を使った生体分子のイメージングです。数ナノメートルの分子自体を直接観察でき、分子1個の挙動を調べることができます。分子が思っていた通りに動いているのを目の当たりにすることもできます。より複雑なものが見えてくれば、新しい発想、発見につながると思います。

 

トピックス

 DNAオリガミ(DNA origami)は、2006年、カリフォルニア工科大学のポール・ロスムンド博士によって開発されたものです。ウイルス由来の長い1本鎖DNAの塩基配列(A、T、G、C)に合わせて、短い相補鎖DNAを設計するだけで長鎖DNAを自在に折り畳み、容易に構造体をつくることができる技術です。技術は公開されており、実験に利用するDNAは購入できることなどから、世界のさまざまな分野の研究者が参画しています。さらに、DNA構造体をつくる技術はDNAオリガミを発展させ、自在な3次元構造体の作製や、レゴブロックのようにDNA分子を組み立てて行く「DNAレンガ」などが開発されています。

 

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