第104回 海藻に学ぶ人間活動の記録
海藻中のヨウ素が教える自然循環と物質サイクルの足跡
日本は資源がないといわれていますが、世界第2位の生産量を誇る天然資源にヨウ素があり、液晶、殺菌・防カビ剤、医薬品などに幅広く利用されています。ヨウ素は、堆積物が溜まった古海水が地下およそ1000メートル程度の地層に取り残された塩分濃度の高い地下水(かん水)中に存在しています。
地下資源の成り立ちを知る上で重要な要素が、物質の年代測定であり、安定的に存在するヨウ素127と歳月の中で半減するヨウ素129の含有比(同位体比)で、かん水層がいつごろできたのかを知ることができます。過去の海洋堆積物から導き出された初期値と比較するものですが、国内の有数な産地のヨウ素年代を測定すると5000万年という数値が導き出されました。周辺の地層年代は45万年?250万年とされ、大きな隔たりがあることがわかったのです。このため、プレートの動きに伴ってヨウ素が他から移動してきたという説も出ていました。
しかし一方で、算定の基本とされる初期値は本当に正しいのかという疑問も生まれました。北海道大学博物館には採取年代がわかる海藻試料(コンブ)が数多く残されています。それらを計測したところ、第2次世界大戦前の試料から、過去に提唱された初期値を下回る値が出たのです。これを国内産地のヨウ素年代に当てはめると、ほぼ地層年代に合致し、移動してきたのではなく地層の中で現位置で生成されたものだと考えられるのです。また、核実験、核燃料再処理、原発事故などの時期には、人工的に放出されたヨウ素129の影響で数値が上がっていることも海藻試料から確認されました。
地下資源がいつごろ形成され、物質のサイクルはどう変化していくのか。そして、そこに人間活動はどのような足跡を残すのか。物質の年代測定は、地球の循環規模を知る重要な研究でもあるのです。
太田朋子 助教
北海道大学 工学研究院
研究とは自ら創造する“芸術”である
学生時代の恩師、京都大学時代の上司は共に、研究者としての生き方を「背中で教える」人でした。そのお陰で、自分の直感と想像を大事にし、直感で得られたアイデアの正しさを地道な実験で1つ1つ検証していくという研究スタイルが身に着きました。そして、学術論文とは研究者がつくることができる“芸術”であり、共に研究する仲間たちへの最高のギフトであるということに気づきました。研究を成功に導くためには強い意志と地道な努力が必要であり、それを支えるために自分自身が最も頼れる存在となるべきだと考えています。 将来、独立した研究室を持ったとき、学生自身が自分の力で道を切り開く力を身に着けられるように、私自身がエネルギーに満ちあふれている存在であることを目指します。そして、日本の明日の一歩につながるよう、研究に力を注ぎたいですね。
日本では、第2次世界大戦前には世界のヨウ素生産量の約70%を生産していました。現在では、約30%と激減していますが、それでも世界第2位という量を誇っています。四方を海に囲まれた国土が、かん水ができやすいからではないかと考えられます。 ヨウ素127は放射能のない安定同位体です。一方、ヨウ素129は放射性同位体であり、宇宙線の影響や地殻中のウランが自発核分裂することなどで、ごく微量が自然界に存在しており、半減期は約1570万年という長期間を要します。ヨウ素には他にも多くの種類の放射性同位体がありますが、いずれも半減期が短く、通常時ではほとんど検出されることはないといいます。うがい薬や消毒薬などに利用されているヨウ素127は、甲状腺に放射性ヨウ素が蓄積して内部被爆するのを予防する「ヨウ素安定剤」として、有事のときに備えられています。 Views: 27