第100回 自然腐食に学ぶナノポーラス金属の作製
リン鉱石の枯渇を救うラッカセイの生態
合金から特定の金属のみを電解液中で溶出させる腐食技術(脱合金化)により、容易にナノポーラス(細孔)構造ができることは古くから知られてきました。近年、このシンプルな技術を用いて、さまざまなナノポーラス金属をつくり、高機能材料として利用する研究が進められ、注目を浴びています。
たとえば触媒に利用される金ナノ粒子は、触媒活性を持たせるために5ナノメートル(nm)以下というサイズ制御が求められますが、繰り返し使うと粒子が大きくなるという問題があります。一方、ナノポーラス金の場合は、30nm程度の細孔サイズでも高い触媒能を有することがわかりました。合金の金属比率や時間など腐食条件の調節で、5?100nmの細孔を任意に作成できることも大きな特徴です。一繋がりの構造体であり、細孔により表面積が大きくなるために触媒活性や電導性も良くなり、ナノ粒子の代替材料として期待されているのです。また、金属と光がナノレベルで相互作用を起こす表面プラズモン共鳴を利用し、生体高分子を検出するセンサーとしてナノポーラス金を利用することも可能です。
さらに、高価で貴重な金などの使用を最少に抑えつつ、高機能な材料を開発する研究も進められています。ナノポーラス銅に薄い金メッキを施したハイブリッド(複合)材料は、ナノポーラス金に匹敵する触媒能を示しました。また、ナノポーラス金と二酸化マンガンのハイブリッド材料を電極に用いると、キャパシタ(蓄電装置)に蓄える電気量を従来の4倍に増やせることが明らかとなり、充放電を繰り返しても材料が劣化しにくいことも確認されました。現在、高性能スーパーキャパシタの開発にも取り組んでいます。
金属と金属がそれぞれの短所をそれぞれの長所で補完し合い、従来を超える機能を発揮するナノポーラスハイブリッド材料。今後、金属以外の材料も含めた複合化研究が進展すれば、触媒やエネルギーデバイスのみならず、さまざまな分野で利用される新しい高機能材料が生まれる大きな可能性を秘めているのです。
藤田武志 准教授
東北大学 原子分子材料科学高等研究機構
目標はウルトラキャパシタをつくること
技術は日進月歩。なかなかジャンプアップは難しく、一歩一歩階段を上る積み重ねが大切だと考えて研究をしています。私たちの研究室は、非常に良い電子顕微鏡を持っていますので、材料解析、新しい機能性材料の研究に力を注いでいますが、高効率なエネルギーデバイスを開発したいという思いもあります。 電気を貯めて使うキャパシタは、環境負荷の低減、エネルギー問題に貢献する技術として普及が期待されていますが、課題はエネルギー密度です。それを解決するために、スーパーキャパシタが開発されています。そして、さらにその上を行くウルトラキャパシタの開発が、私たちの目標です。これは電池に近いエネルギー密度をもった高性能キャパシタで、従来にくらべてより多くの電気を貯めることができる。その実現に向けて、より安価で高機能なナノポーラスハイブリッド材料を開発したいと考えています。 スーパーキャパシタは、電気二重層キャパシタとも呼ばれています。電池に比べて内部抵抗が非常に低いため大電流の放出が可能で、完全放電しても電池のように壊れないのが、大きな特徴です。電池は充放電を繰り返すと劣化し、寿命が短いですが、キャパシタは寿命が非常に長く、普通の電池の100倍以上長持ちするとも言われています。燃料電池とスーパーキャパシタを組み合わせたハイブリッド自動車などもすでに登場しており、夜間電力の蓄電などへの利用も始まっています。また、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーと組み合わせることで、再生可能エネルギー社会の構築にも期待が寄せられています。蓄えられる電気量が小さいことが課題でしたが、ナノポーラスハイブリッド材料の登場が、さらに高性能なウルトラキャパシタの開発に大きく道を拓いたと言えるでしょう。 Views: 40