第49回  生体高分子に学ぶ機能性材料

人工DNAでつくるナノワイヤー

生体は超精密な生体高分子をいとも簡単につくり、 その分子1つ1つの役割が全体のシステムを支えている。 遺伝情報を司り、生命を育む生体高分子、 DNAに学ぶ機能性材料とは?
DNA(デオキシリボ核酸)の2重らせん

DNA(デオキシリボ核酸)の2重らせん

 DNAは、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4つの塩基が規則的に配列された2本のヌクレオチド鎖の、A/T、G/Cの塩基対同士が水素結合で引き合い2重らせん構造をとる。写真は、DNA2重らせん構造のイメージである。

命の設計図とも言われるDNAは、アデニン、チミン、グアニン、シトシンの4種類の塩基と糖、リン酸からなるヌクレオチドというユニットが多数つながれてできる生体高分子です。ユニットがプログラムされた配列どおりに規則正しく並んで1本の糸状の分子を構成し、分子同士の2種類ずつの塩基対が水素結合でゆるやかに引き合うことで、2重らせんという構造を形成しています。

このDNAの自己組織化をテンプレートとして利用し、さまざまな分子を規則正しく並ばせてナノサイズの精密材料をつくる研究が行われています。塩基による水素結合の代わりに、銅や銀などの金属イオンを引きつける金属配位子を導入した人工DNAと金属イオンを水中に入れておくと、室温でらせん構造が自然に組み上がり、らせんの中央に金属イオンをキレイに並べることができるのです。

金属配位子と金属の組み合わせを変え、配位子の位置をデザインすることで、複数の種類の金属イオンを望み通りの配列でたくさん並ばせることも可能です。これによって、さまざまな金属イオンが有する、導電性や磁性、光学特性などを生かしたナノスケールのメタルワイヤーを自在に生産できるようになってきました。

また、DNAの2重らせん構造は時にバラバラになり自らの複製をつくりますが、導入した金属イオンに光などの外部刺激を与え、このメカニズムのオン・オフを制御することもできるのです。現在、複雑な形状デザイン、分子の相互作用をコントロールする研究などが進められており、分子回路や分子磁石の開発、スイッチング素子やセンサーとしての利用、触媒や反応場などとしての応用も期待されています。自ら組み上がり、自動でオン・オフするだけでなく、環境の変動に対応して働くインテリジェントな分子回路が、そう遠くない将来、実現するかも知れません。

 

田中健太郎 教授
名古屋大学大学院 理学研究科

田中健太郎 教授

自分のデザインでものをつくることが、化学の醍醐味

学生時代は、DNAを並べて偏光材料をつくる研究などをしていました。分子1つ1つをきちんとデザインして並べてみようという発想が、いまの研究につながっています。化学の醍醐味は、自分のデザインでものをつくることができること。デザインすることで新しい形が生まれ、分子の機能を材料に生かすことができるのです。 現在は、分子を集合させて配列させると、分子ごとのキャラクターがどう変わるのか、配列に少し手を加えるとどんな機能が生まれるか、分子の相互作用をおもに研究しています。1つ1つの分子をつくること、その分子を自在に動かすことが、これまでの化学でしたが、将来的には、さまざまな種類のたくさんの分子からなる精密な化学システムを自在にコントロールできればと思っています。

 

トピックス

 DNAの2重らせん構造が発見されたのは、いまから50年ほど前のこと。右巻きの2重らせん構造で、横幅がおよそ2~3ナノメートル、らせんの1巻きは10個のヌクレオチドでできています。人の場合で1つの細胞に存在するDNAをつなぎ合わせると長さは、およそ2メートルに及ぶと言います。 現在では、ATGCの配列をインプットしておくと自動的にDNAを作成する自動合成機も市販されており、100個程度のヌクレオチドを並べることが可能です。これによって、人工DNAを利用した研究が活発に行われるようになり、さまざまな応用が期待されています。 たとえば、スイッチング機能をもった人工DNAは、電子デバイスなどの材料開発にとどまらず、将来的に、悪さをする遺伝子をオフにするというような治療に使われる可能性も秘めています。

 

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