第154回 樹木の階層構造に学ぶ光透過性木質材料の開発
木の風合いを残したまま 光を楽しむ加工技術を開発
昔から、木材は住宅や家具をはじめ、さまざまに利用されてきました。ところが近代化の100年の中で、国産木材の利用率は著しく減少しています。そしていま、山林には伐採時期を過ぎた樹木が多く存在しているのです。樹木はある程度の年数成長すると、期待されている二酸化炭素固定能が大きく低下していきます。伐採と植樹を計画的に行うことが森林育成に欠かせないことであり、木材の利用拡大が国の重要施策の1つとなっているのです。
そうした中で、近年注目されているのが、木材を利用して光透過性材料をつくることです。これまでに、密閉金型の中で高温高圧下で圧縮する技術、木の細胞の内腔を樹脂で埋めて光の反射をなくして透過させる技術が開発されています。ところが、高温高圧状態をつくるためにはエネルギー消費が非常に大きく、内腔全体を樹脂で埋めてしまうと見た目がプラスチックのようになってしまうなどの問題があります。そこで、2つの技術を組み合わせて、木目や風合いを残したまま光を透過させようという研究が開始されました。
木の細胞は階層構造になっており、細胞の中心に内腔があります。そして、そこを取り囲む細胞壁には、無数の微細孔が空いています。この微細孔に樹脂を含浸させ、内腔には樹脂が残らないようにした後、特定の部位を圧縮することで、木の風合いを残した部分と光を透過する部分とを併せ持つ、木質材料ができるのではないかと考えたのです。
すでに、その方法でいくつかの試作品が制作され、最適な樹脂の種類や量、圧縮率と透過性の関係などが詳細に測定されてきました。現在、日本では木材の利用拡大策として、燃料用ペレット、新しい集成板の製造などが進んでいます。さらなる有効活用法として、木が本来もっている自然な風合いを活かした機能性材料の実用化が期待されています。
杉元宏行 准教授
愛媛大学 農学部
木材に愛を持って…
学生時代、私ははじめ、応用研究にはまったく興味がなく、だれも知らないことを明らかにしたいという思いだけで研究をしていました。ちょうどその頃、森林の減少、地球温暖化、エネルギーや資源の問題などが社会で話題になり始めたのです。私は、一連の環境問題が森林でつながっていることに気づきました。それらの問題をブレークスルーするにはどうしたらいいのか…。そこで、石油に替わる材料としての木の利用法について、研究するようになりました。 樹木の微細構造と物性の関係をきちっと知り、石油に替わりうる材料をつくりたいですね。燃やしたり、集成板にする前に、選別した高品質な木をできるだけ高額で売れるようにできればと考えています。日本国内はもちろんですが、発展途上国の森林保全にも役立てられるのではないかという思いや、木材に愛を持って使ってもらいたいという思いもあります。
2015年より、林野庁の補助事業として「ウッデザイン賞」が実施されています。これは、国産材を積極的に使った取り組みを表彰し、森林整備につなげていこうという取り組みです。部門の1つに、技術・研究分野が設けられており、付加価値のある材料開発、新しい加工技術などが表彰されています。「ウッドデザイン賞2016」において、この光透過性木質成形体の研究が新たな製造・加工技術として「奨励賞」を受賞しました。 近年、セルロースナノファイバーなどの材料開発も注目されています。木質研究は一時代前にやり尽くしたという意見もありますが、世界第2位の森林率を有する日本おいて、木質研究が再び活発化し、健全な森林を育成できる環境づくりが求められているのではないでしょうか。 Views: 395